イラン北西部カスピ海寄りにあるアルデビルはサファビー朝の先祖の出身地として名高い。コーカサス絨毯に似た幾何学文様や花を単純化した文様が中心で、綿の地糸にウールのパイルを用い、渋めの赤が特徴ともいえる。
アフシャルは南ペルシアの部族で、アフシャル・ラグの名はトルコ起源の遊牧民に由来している。木綿の地糸に羊毛のパイルを持ち、文様は幾何学文様が主流で、ボテ、糸杉、生命の木なども用いられる。一般にはトルコ結びが用いられている。
バクティアリはもともと部族の名で、1867年イルカーン(最高指導者)の主導のもと連合を結成し、すでにその頃からザクロス山脈東のチャハルマハルや シュシタールで広範にラグの生産をしていた。部族の作品と工場の製品があり、羊毛の地糸に植物染料で染めた羊毛のパイルでトライバル(部族の)・ラグとし てキリム織りの鞍袋やバッグと並び有名である。一般にはトルコ結びが用いられている。
テヘランから南へ約400km、イラン高原中央部に位置する古都イスファハンは、シャー・アバスがこの地を首都とした17世紀がその黄金時代といえ、かつ ての宮殿や遺跡の数々がサファビー朝の栄華を今に伝えている。この時代を通じてイスファハンの絨毯は世界で最も美しいものの一つとして高い評判をかち得 た。とりわけ有名なのがシャー専属の工房があり、そこで作られたいわゆる‘ポロネーズ’と呼ばれる絨毯であった。それらは通例ヨーロッパの支配者に進呈す るために製作された。現在も熟練した織り手により伝統は守られ、グレードの高い絹の地糸に羊毛のパイルを用いた美しい絨毯が製作されている。
カシャーンはテヘランの南約300kmに位置する古い都で古くから織物の歴史を持っている。現在、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館所蔵の有名な ‘アルデビル絨毯’はカシャーンで製作された。カシャーンは絹の織物でも有名で、それゆえ見事なシルク絨毯も製作されている。ウール絨毯は地糸に木綿、シ ルク絨毯の地糸には絹も用いられている。結びはペルシア結びが用いられている。
カシュガイはファールス地方の部族の名で、カシュガイ族はカスピ海方面からイラン西部に移り住んだトルコ系遊牧民族です。コーカサス地方に見られる幾何学 文様が特徴のキリムを多く産出する。遊牧民の多くは今日定住化しているが今も水平織り機を使い、家畜の羊から取った毛で糸を紡ぎ、植物染料を用いるなど伝 統を守り続けている。動物や鳥、騎士、樹木などを素朴な形で表した文様が多く、特に三叉に別れた幹をもつ生命の木は多くのラグに使われている。地糸もパイ ルも羊毛で、柔らかくたためるラフなタイプが特徴である。
テヘランから南へ約120kmに位置する街クムはシルク絨毯の代表的産地である。その昔はゾロアスター教の聖地であったが、9世紀にイスラム勢力が強まり シーア派モスリムの重要な聖地となった。絨毯産業が興ったのは比較的新しく1930年代のこと。新興産地のため当初はカシャーンの技術指導を受け、カ シャーンやイスファハン、セネなどのデザインを借用していたが、1960年代にオールシルクの絨毯を製作するようになり、クムの人気はヨーロッパで一気に 高まった。有名工房が数多くあり、それぞれが競い合って独自のデザインを開発し、シルクの特性を生かした緻密な織りの色彩も華やかな素晴らしい作品が製作 されている。
ケルマンはイラン中央のルート砂漠西南部にある町で、ケルマン・ラグはその周辺地域で製作される絨毯の総称になっている。荒涼とした景観への反動からかラ イトイエローのベースにチェリーレッドの美しい花の文様の絨毯が数多くみられる。木綿の地糸に羊毛のパイルを用いている。ラバーの町で製作されたラグは特 に品質も優れておりケルマンラバーの名で有名である。
サルークはイラン西北アラク地方の織物と農業が中心の村。絨毯のデザインは古典的なメダリオンや花模様が好んで用いられている。この地方のラグは珊瑚色の赤の独特のぼかしが特徴である。
イスファハンから南に約500km、イラン南部のファールス地方の都市で今は観光地として名高い。アケメネス朝の有名な遺跡‘ペルセポリス’や、詩人のハーフェズやサーディーの廟などがある。
セネはイラン西部クルディスタンにある。ラグの伝統的文様は何世紀もの間ほとんど変わらず繊細な花模様が主流でメダリオンデザインの作品はほとんど先例が ない。ラグの糸には若い羊の良質なウールが用いられ、染料は植物性で微妙な色合いを出している。セネはまたキリムの生産でも知られている。
タブリーズはイラン北西部標高1,360mに位置する高原都市で、17世紀以来最も主要な絨毯の生産地である。夏は涼しいが冬は寒く厚い雪で覆われてしま う厳しい気候であるが、古くから東西交通の重要な位置にありヨーロッパとの交易の要衝と言える。19世紀にはイラン商業の中心地としてタブリーズ商人の絨 毯産業における活躍ぶりは目を見張るものがある。輸出用の絨毯が中心で、タブリーズの織り手は男性で特別な鉤針を用いるため、力強く整然としたきれいな仕 上りが特徴である。ヘラティ(マヒ)デザインやメダリオンデザインが中心で、素材は地糸に綿、パイルはウールで一部絹を用いたものがあり、トルコ結びを用 いている。また、絵画調の絨毯を最も得意とする工房がある。
ナインはイスファハンに近いイラン中央部に位置するオアシスの町で、かつてはアバスと呼ばれる伝統衣服を製造していた。この産業はかつて西欧スタイルの衣 服の流行により衰退し、織物職人はその技術を絨毯製作に切り換えた。当初から緻密な織りのラグを作り出しナインは世界に知られる絨毯産地となった。地色は アイボリー系が多くブルーやレッド、グリーンなどで細かい文様を描き、明るく落ち着いた色調を醸し出している。白い絹糸でモティーフの輪郭をとり文様を浮 かび上がらせる手法が特徴となっている。木綿の地糸に羊毛のパイルでペルシア結びを用いている。
バルーチ族の名に由来しているラグは「マシャッド・バルーチ」ともいわれ、羊毛の地糸に羊毛のパイルで織られ、しなやかな感じでラフな敷物として人気がある。デザインは幾何学的なものが多い。幅の割に長さのあるサイズが多い。
ビジャールはクルディスタン地方の主要な町で、第一次世界大戦の間はロシアとトルコに占領され、戦後は飢えに襲われるという苦難の歴史をもっている。ビ ジャールのラグは結びの列が固く打ち込まれ締められているため、堅牢で重いと高く評価されている。文様はおもに花が多くオールオーバーデザインとなってい る。
コラサン地方の町。クリーム色の地にヘラティ文様の絨毯が数多く正方形に近いサイズを製作している数少ない産地のひとつ。
テヘランの近くに位置し、渋い赤が特徴の単純な花柄のオールオーバー・デザインでよく知られている。特にヨーロッパで人気がある。
イラン北東部のホラーサーン州の州都であり聖地でもある。色調はおとなしい古典的なメダリオン・デザインが一般的で綿の地糸に羊毛のパイルのほかシルクの地糸にシルクのパイルを用いたものも見られる。
イラン中央部のゾロアスター教徒が多くすむヤズドは、乾いた熱風と強烈な日差しの典型的な沙漠都市。絨毯の生産量は少なくデザインも華やかさにかけるが織りはしっかりしており、たいへん実用的といえる。綿の地糸に羊毛のパイル。